【本】「落下する夕方」

落下する夕方

1999年に文庫本が発売された江國香織の名作のひとつ

ちょっとブログで新たな試みをひとつ。

先日、数年ぶりの女友だちに会ったのですが、

彼女と知り合ったきっかけはmixiでした。

当時、mixiで私が書いた江國香織の小説のレビューを見て、会いたくなったそうです。

そういえば昔はよく、mixiで本や映画のレビューを書いていたんです。

仕事が忙しくなって、なかなか書けずにいましたが、

なるべくこういう記事を書いていきたいし、いかなきゃなと思い出しまして。

まずは、過去書き溜めていたmixiレビューをちょこっとずつこちらに転載しようと思います。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー2006年1月12日執筆

角川書店から1999年に出版された小説。
梨果は、8年一緒に暮らした健吾を未だに穏やかに愛している。
その健吾が冒頭で、「引っ越そうと思う」とつぶやく。
それが別れ話であるということに気づくのに時間がかかった。

理由は、他に好きな女性がいるから。
とてつもない喪失感を抱きながらも、
なすすべなく別居する2人。
引っ越していった健吾と相変わらず連絡はマメに取るが、
叶わない片思いに憔悴していく健吾の姿は梨果にも辛い。

ほどなく、今は梨果ひとりぼっちの家のインターホンがなる。
「今日からここに住むわ」と上がり込んできたのは
健吾の片思いの相手、華子。

マイペースで強引で、わがままで怠け者だけれど、
生きた人間にはないような魅力がある華子。
働きもせず、健吾の愛にも応えない、
だからといって、誰かを愛するでもなく、
数人の男と遊んでみせる姿は、
湿り気をなくした綿毛のようで、
女性から嫌な感情を抜き取って美しく仕上げたような存在だ。

華子が来てから、
「どちらに会いたくて来ているのか自分でもわからない」
と言いながら、健吾も時々顔を出すようになった。
最初は、一時的だと思っていた華子の存在は、
梨果の中でいつの間にかかけがえのない存在になっていく。

3人にしかわからない微妙なバランスと
それでも少しずつ壊れていく関係を
定点観測的に捉えた作品だ。

——————————————————-

今年初めて読んだ小説。
江國香織の作品はもう何冊も読んできたが、
この作品がいちばん透き通っている。

彼女の作風は、いつも透明感があり、とても無機質だ。
おおよそ普通の女性ではありえない
完璧な調和と時に激しすぎる感情の波を見せる。

それは、読者にとっては経験したことのない世界のはずだが、
なのに、すべての女性に澄んだ涙をもたらす。

嫉妬や独占欲といった感情を取り除くと、
女性はいわゆる母性だけになって、
ここまで人を愛することができるのだろうか。

それは、生命の匂いが感じられない
天国で暮らしているような感じだろうが、
この感覚を味わうことができれば、
人はもっと自由に生きて行けるのかもしれない。

私は、よく恋をするが、
あまり自分の感覚を信じていない。
それは、人の感情のほとんどは錯覚でできているし、
いちいちその錯覚に付き合う強さを持っていないからだと思う。

恋をすると、一日がとても長い。
その人に会えない辛さや声が聴けない悲しさで眠れない。

恋は毎日を見たこともない素敵な色に染める代わりに
今まで素敵だと思っていた他のものへの興味を
なくしてしまうという副作用を持っている。

そんなじめじめした感情がなくなってしまえば
どんなにいいだろうと思う。
人生を終わらせる自殺ではないにしろ、
負の感情を捨て去ることができれば、
平坦でも穏やかな毎日はどんなにいいだろうと思う。
隣の芝生は青い。
青さをうしなった人は、
もう二度と味わえない蒼さを想うかもしれないが、
このマイナスの波は、女性特有の腹痛同様堪え難いものがある。

そんな負の感情をごそっとそぎ落としたのが
この華子という女性だ。
華子と健吾と梨果は、もしかすると3人共あまりに未熟で
3人で一人前にもならないかもしれない。
それでも人生は続いていく。
完璧でない彼らにも陽はのぼり夜はやってくる。
それは、彼らにとって唯一同じに与えられ
そしてとても愛おしいことなのだ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー2012年5月15日

男と女について、よく考えていた時期に読んだのかなぁ。

この作品は、映画化もされていて、

原田知世と菅野美穂が2人の女性を演じていて、イメージによく合っていました。

少し困った男性役は、渡部篤郎。どの役者もとても好きです。

これを映画で観るなら、今ぐらいの季節から9月の頭までがオススメです。

2 Responses to 【本】「落下する夕方」

  1. ノッコ より:

    とらこやさん、ケンジーズドーナツでいつもお世話になってます!
    友人のリンクから拝見。
    江國香織話に嬉しくコメントさせて頂きました♩
    落下する夕方、きらきらひかる
    が大好きなんです。
    江國香織さんの表現する日本語のきれいさ、人物像にとてつもなく惹かれます。

    ブログまたひょっこり拝見させて頂きます。

  2. とだ より:

    ノッコさん
    コメントありがとうございます!
    山田君のところから飛んできてくださったのかな??
    江國香織は名前と誕生日が一緒で縁を感じます。
    また気が向いたら見にいらしてくださいな(^^)

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